産業用無線LAN装置とは?商用無線LAN装置との違いと選定のポイントwhat-industrial_wireless_lan

産業用無線LAN装置とは?

家庭向け、あるいはビジネス向けの無線LAN機器をご利用の方は多いと思いますが、こういった商用無線LAN機器と産業用無線LAN機器の違いをご存知でしょうか?決められた規格で通信し、外観もそれほど変わらないため、どちらも似たものと思われるかもしれません。しかし、産業用無線LAN装置には商用にはない特別な機能やメリットがあります。具体的にどのように違うか、産業用無線LAN装置が使われるシーンから、その違いを解説します。

 

ポイント① 産業用無線LAN装置は湿度や温度などの耐環境性に配慮

産業無線LAN装置は、発電所やダム、水道などのインフラ、鉄道や港湾の施設などの通信装置として屋外に設置され、極端な温度、湿度など過酷な環境にさらされることがあります。そのため、非常に厳しい環境条件に耐えられる耐環境性が求められます。たとえば、設置する場所が高温、多湿の環境である場合や、その逆に極寒の地域や、砂漠のような極度に乾燥した場所になるケースも考えられるでしょう。このような環境では無線LAN装置の内部基板に付いている電子デバイスが劣化しやすくなるため、電解コンデンサなど、特に寿命が問題となるケースでは、特別に長寿命な仕様の部品を採用しています。さらに、部品点数をシンプルにする、消費電力を抑え部品劣化を減らすよう専用のASIC(特定用途向け集積回路)を使うなどの工夫が凝らされている場合もあります。また、高温時を想定し、基板を綿密に設計しています。設計段階から、CPUやスイッチングレギュレータなど、発熱が起きやすい部品を分散させて設置したり、発熱状況をソフトウェアでシミュレーションして熱分布を検証したり、ヒートシンクを使ったり、自然空冷を採用したり、内部の熱を効率よく逃がせるような最適な放熱設計を行っています【★写真1】。

 

【★写真1】耐環境性に優れたMoxaの産業用無線LAN装置「AWKシリーズ」。アドバンス、ベーシック、エントリーの3モデルを用意。過酷な環境に対応する屋外用 (IP68筐体、M12コネクタ)もあり。

 

このような工夫により、産業用無線LAN装置は商用装置よりも動作温度範囲が広く、なかには-40℃ ~ 85℃に対応できるモデルもあります。これらの特長は目に見えにくく違いが分かりづらいですが、ぜひ製品選びの参考にしてください。

 

ポイント② 産業用無線LAN装置は堅牢設計! 振動や衝撃対策も

産業用無線LAN装置は、工場内の絶えず機械が動き衝撃が伝わるような場所や、常に振動が発生するAGV (無人搬送車)などの搬送装置、バスや電車で運航情報を示すサイネージやPIS (旅客情報システム)、監視カメラなどに設置されることもあるため、耐振性、耐衝撃性を備えた堅牢な設計が重要です。振動や衝撃については、あらかじめIEC 60068のような基本的な環境試験規格をクリアする無線LAN装置を選んでおくと安心です。弊社が扱うMoxa製品には、欧州の鉄道規格EN50155に準拠した製品もあります。このEN50155は、さまざまな電源状況で信頼性を担保するための環境テスト規格になります。具体的には、振動、衝撃、温度変化などの耐環境テストのほか、EMCテスト、安全性テスト (絶縁体)など、前出のIEC 60068に準拠したテストを実施します。EN50155はJIS規格で要求されるレベルも完全にクリアするため、国内でも安心して製品を利用することができます。

 

ポイント③ 産業用なら電気的ノイズ耐性もクリア

工場内では静電気、ノイズ、サージなどが飛び交うシーンも多いでしょう。工場機械や搬送装置にはモータやインバータなどノイズ源になる装置があり、信号線にノイズがのって誤作動を起こしたり、システムが故障したりする可能性があります。そのため、産業現場ではノイズ耐性が重視されます。産業用無線LANには、EN 61000-6-2,6-4 (EMC)やIEC 61000-4-2 (ESD)などに規定されるレベルを保証する装置があります。この規格は操作者から直接、あるいは近接物体から発生する電気的ストレスの評価に適用されるものです。このほかにも、太陽光発電所や変電所などのインフラには、IEC 61000-4よりも上位の特別な規格をクリアした製品が使用されることもあります。

 

ポイント④ ダウンタイムを排除!電波に関する高度な機能が満載

工場内などで使用される産業用無線LAN装置にとって、損失を生む可能性のあるダウンタイムは深刻な問題です。そこで、産業用装置にはダウンタイムを削減するためのさまざまな機能が搭載されています。以下では、Moxaの無線機器の主な機能をご紹介します。

 

まずは高速ローミング機能です。たとえば、自動倉庫などで荷物や部品などを搬送するAGV装置は、広範囲を高速で移動していますが、複数のAP (アクセスポイント) をまたいでクライアントが移動するため、高速なローミングが求められます。APを切り替える際の時間が長いと、その間はデータ伝送ができなくなってしまうためです。他社のモバイル向け無線LAN装置ではローミング速度が1秒から数秒程度かかりますが、Moxaの製品では「Turbo Roaming」と呼ばれる技術で150ミリ秒 (最短50ミリ秒)以下で高速に切り替えることができます【★写真2】。

 

【★写真2】WiFiコントローラと組み見合わせ、Turbo Roamingの性能を50ミリ秒以下まで向上させたデモ。画面はPingの応答時間を表示。

 

また、電磁干渉などの多くの要因に影響されやすい動作環境下でダウンタイムを避けるために、電波状況や無線ネットワーク構成の可視化も重要です。Moxaでは、ネットワークの全体像をリアルタイムで把握し、構成変化が起きた際に自動更新、表示するダイナミックネットワークトポロジ機能を備えた運用ツールMXviewも用意しています【★写真3】。

 

【★写真3】Moxaのワイヤレス監視ツール「MXview」。ネットワークに障害が起き、構成変化が起きた場合に動的にネットワークトポロジを自動更新して画面に表示する。

 

ほかにも産業用ネットワークのOTプロトコル対応 (EtherNet/IP、PROFINETなど)、冗長構成 (回復時間)や帯域保証の工夫、セキュリティ対策など、産業用無線LAN装置には多くの機能が装備されています【★写真4】。

 

【★写真4】商用と産業用の無線LAN装置の違い。動作温度がワイドで、対ノイズ性に優れ、産業用の専用バスに対応し、冗長構成でネットワークを高速に復旧できるといった違いがある。

 

産業用無線LAN装置には、厳しい環境下であっても安定運用を実現するための機能が備えられています。自社にあった最適な装置を選ぶためには、上記のようなポイントを押さえながら、実績のあるメーカーや代理店の製品を選択することをおすすめします。

Moxaの産業用無線LANラインナップ