2024 .6.19

OTネットワークにおける産業用無線の課題と解決策を徹底解説~IEEE 802.11ah(Wi-Fi HaLow™)対応製品もご紹介!

近年、産業界のあらゆる設備に無線通信技術が導入されています。しかし、移動体にネットワークを導入できるなどのメリットがある一方で、ノイズ干渉により通信が不安定になるなど、無線通信を要因とする課題に悩まれているという声も多く聞かれます。そこで、弊社ではWi-Fi4/5/6、ローカル5G、IEEE 802.11ahの3点にスポットを当て、今OTネットワークが抱える課題を解説し、解決に役立つMoxaの最新情報をご紹介するウェビナーを開催しました。今回のコラムでは、ウェビナーの内容をぎゅぎゅっとまとめてレポートします!

 

産業用無線で世界的に有名なMoxaとはどんな企業なのか?

第一部では、Moxa Japan合同会社のプロダクトマーケティング部部長 長澤 宣和氏【★写真1】より、産業用無線ソリューションのリーディングカンパニーであるMoxaの紹介と戦略の説明がありました。

 

 

【★写真1】Moxa Japan合同会社 プロダクトマーケティング部部長 長澤 宣和氏

 

 

台湾に本社を構えるMoxaは、世界各国のミッションクリティカルな産業現場にエッジ to クラウドの接続を提供している産業用ネットワーク機器のグローバルメーカーです。以前より産業用無線としてWi-Fiを中心としたワイヤレスソリューションを提供しており、日本ではローカル5G製品もリリースしています。昨今、Wi-FiはWi-Fi6Eのような最新の規格を採用している企業も出てきていますが、現場での利用を考えると必ずしも先端技術が良いとは限りません。例えば、現場では、工場内を走り回るAGV/AMRに無線装置を組み込むために、限られた空間に収まる省スペース設計が重要視されています。また、走行時の振動や電源からのサージ、モータからのノイズなどの干渉を受ける劣悪な環境でも利用できるよう、物理性能とEMS耐久性があり寿命の長い製品が求められています。Moxaでは、このようなお客様のニーズに重点を置いた製品開発を行っています。また、Moxaの正規代理店であるケーメックスONEは、産業用無線においてこれまでに数多くの実績と経験を積み上げており、日本市場での利活用に求められる独自仕様を備えた製品にも対応しています。

 

規格面とアライアンス面から無線通信の歴史を振り返る

第二部では、ケーメックスONE 戦略統括部部長の金城 剛【★写真2】より、OTネットワークにおける産業用無線の実情と課題、その解決法について解説がなされました。まず初めに、規格面から無線通信の歴史を辿りましょう。無線規格は1999年に登場したIEEE 802.11a/bから始まり、同g、同11n、同11ac、同11ax、同11beと進化してきました。一方で、各規格に対してWi-Fiアライアンスが認証を与えた呼称がWi-Fi0/1/2/3、4、5 ~となり、その関係は次の通りです【★写真3】。

 

 

【★写真2】ケーメックスONE 戦略統括部 部長 金城 剛

 

 

 

【★写真3】図はWi-Fi4/5/6とIEEE-Wi-Fiアライアンスの関係を示したもの。

 

 

Wi-Fi通信を周波数別に見ると、現時点ではWi-Fi4や5における2.4GHz/5GHzが産業用では主流ですが、5GHz帯も枯渇しつつあり、Wi-Fi6の拡張版として6GHzが使えるWi-Fi6Eが登場しています。特殊なものとしてサブ1GHzのWi-Fi HaLow、さらに60GHzのWiGigもありますが、これらは今後の普及となるでしょう【★写真4】。

 

 

【★写真4】Wi-Fi通信の周波数分布。近年は主流のWi-Fi4/5だけでなく、Wi-Fi6E、Wi-Fi HaLow、WiGigも登場。

 

 

Wi-Fi4、5、6など規格が進化するに伴い通信速度に違いが生まれてきました。例えば、Wi-Fi4から5に移行した場合は3倍超のスピード向上が見込まれ、Wi-Fi5から6では6が若干向上しています。Moxaでは、これらに対応した製品群を用意していますが、チップ性能もアップしているため、高いパフォーマンスを発揮できます【★写真5】。例えば、Wi-Fi4対応の産業用無線アクセスポイント(AP)/ブリッジ/クライアントの「AWK-3131A」では接続可能なAP数が100なのに対して、Wi-Fi5対応の「AWK-3252A」になると2倍の200まで同時に接続できます。これによりAPの設置効率が劇的に上がり、コスト削減にも繋がります。

 

 

【★写真5】Moxaの無線装置のラインナップ。Wi-Fi4からWi-Fi6 (Wi-Fi6対応製品は現在開発中)までの製品を用意。

 

産業現場におけるWi-Fi通信の2つの大きな課題~耐環境性と電波干渉

続いて、現在のWi-Fi通信の課題について解説します。ケーメックスONEは、これまで10年以上にわたり産業用分野におけるWi-Fiソリューションをご提案してきましたが、その経験を踏まえた上で、第一に挙げられる課題がハードの環境耐性です。例えば、工場内の冷凍倉庫ではマイナス温度下での無線運用が必要となり、製品の安定稼働に影響が出ます。また、モビリティに無線装置が搭載される場合は、振動や衝撃も考慮しなければなりません。これらの要因はすべて製品の寿命に関わります。

 

加えて、ノイズやサージ、静電気などに対する電気的な耐性も必要です。過去には、巨大なバッテリとモータを内蔵し工場内を走り回るAGV/AMRのモータから発生したノイズが延長ケーブルに乗って逆流し、モジュールに疲労骨折のようなダメージを与え、1年半~3年の間に故障が起きてしまうという事例が発生しました。この原因の解明に1ヵ月程要しましたが、アンテナと電源に産業用無線機器において世界初の試みとなるレベル4の静電放電保護を実装し、ノイズをカットすることで、故障を完全になくすことに成功しました。【★写真6】。

 

 

【★写真6】Moxa製品は、産業用無線機器において世界初の試みとなるレベル4静電放電保護を実装。

 

 

もう1つ、Wi-Fi (2.4GHz帯)の電波にヒゲのような信号が乗り、干渉が起きてしまう問題が発生したこともあります。この解決策として、Moxaは2.4GHz帯のBPF (バンドパスフィルタ)を採用し、LTE信号に隣接する周波数からの干渉を最小限に抑え、帯域外信号フィルタの向上と帯域外干渉への耐性を強化することに成功しました【★写真7】。これは10の-4乗以下という厳しいパケットロスを要求される鉄道分野で知見を培ってきたMoxaならではの対応策です。

 

 

【★写真7】Moxa製品は2.4GHz帯の高性能なBPFを内蔵。LTE信号に隣接する周波数からの干渉を最小限に抑えている。

 

その他の産業用無線の課題~設計の難易度と運用および保守メンテナンス

産業用無線を導入するにあたり、特に時間を掛けるべきところは、事前にサイトサーベイを実施し、最適なチャンネル設計を行うことです。例えば、工場内では400台以上のAGVが走行することもあり、モビリティに対してIPの衝突が発生することがあります。このような現場のネットワーク設計では堅牢な管理が求められます。前出のAWKシリーズであれば、クライアント側のWi-Fi子機にNAT機能が内蔵されており、IPアドレスの競合を気にせずに、容易にマシン設定を複製することができます【★写真8】。

 

 

【★写真8】ルータにはNAT機能を備えているのが一般的だが、Moxaの無線装置もNAT機能を搭載している点が特長の1つだ。

 

 

さらに、サイトサーベイからチャンネル設計、実運用までのサイクルにおいて、最適な設定を行うために、現場の無線装置にどれだけ細やかな設定ができるかということもポイントになります。もちろん産業用無線導入後は稼働状況を監視し、何か異常が起きそうなとき、あるいは起きたときにリスクを検知し、最終的に的確かつ迅速なトラブルシューティングを行う必要もあります。トラブル発生時にすぐに原因を究明できるように、Moxaでは専用ツール「MXview One Wireless」をご用意しています。現場の状況をプレイバックして調査でき、構成情報や設定情報の管理、イベントシステムやセキュリティポリシーの管理も可能です【★写真9】。

 

 

【★写真9】トラブルシュートが容易になるMoxaの専用ツール「MXview One Wireless」。プレイバック機能によりローミング状況の再生が可能。

 

 

さらに昨今のサイバーセキュリティの課題に対処するために、IEC 62443-4-2 SL2や最新のWPA3をサポートする製品 (前出のAWKシリーズ) もあります。ちなみに、ネットワークデバイスメーカーとしてIEC 62443規格の認証を取得したのはMoxaが初であり、セキュリティ案件も含めてトータルでソリューションを展開しています。

 

また、無線機器に限った話ではありませんが、産業用製品は、導入後の安定稼働が重視され、すぐに交換することもできないため、長期および継続供給が求められます。Moxaは製品の長期提供を謳っており、チップセットの供給がなくなるまでは基本的に製品を提供する方針とのことです。

 

MoxaのIEEE 802.11ah (Wi-Fi HaLow)への対応状況は?

2016年から進展してきたIEEE 802.11ah (Wi-Fi HaLow) は、他の規格と比べて転送距離が長く、数Mbpsのスループット、低消費電力3.5W以下という特徴があります。標準のWi-Fiではスループットが100m前後で落ちてしまいますが、Wi-Fi HaLowの帯域は920MHz帯で、数100mでも通信できるという距離的なアドバンテージがあります【★写真10】。MoxaではWi-Fi HaLow対応の製品について開発を続けています。ご要望のあるお客様にはサンプルをお貸出しすることも可能ですので、お気軽にご相談ください。【★写真11】。

 

 

【★写真10】Wi-Fi HaLow (IEEE 802.11ah)と標準的なWi-Fi4/5/6との性能比較。Wi-Fi HaLowはサブギガ帯で数100mでも通信が可能。

 

 

【★写真11】Moxaが開発中のWi-Fi HaLow対応無線ソリューション。ワイド入力のDC電源、2.8Wの低消費電力、LANポートx 2を装備。

 

ローカル5Gの特徴およびパブリック5G/プライベート5Gとの比較

続いて金城よりローカル5Gに関しても解説いたしました。

ローカル5Gがホットなキーワードになっていますが、すでに携帯電話のようなパブリック5Gは身近なものとなっており、パブリック5Gを法人向けに切り分けて使うプライべート5Gも産業シーンで利用されています。5Gの各国における対応状況は以下の通りです【★写真12】。

 

 

【★写真12】5Gネットワークにおける各国の対応状況の推移。日本台湾のバンドがほぼ同じなのでMoxaとしても展開がしやすいそうだ。

 

 

日本については「N79」というバンドに対応し、台湾と同等なので両国で対応しやすいメリットがあります。パブリック5Gとローカル5Gの違いは、一言でいうと共有型か専用型かということです。ローカル5Gでは企業ごとに専用基地局を立てるため、大容量、低遅延、接続数で優位性を発揮できますが、導入コストが高いというデメリットもあります【★写真13】。

 

 

【★写真13】パブリック5Gとローカル5Gの違いは共有型か (企業に特化した)専用型かという点。ローカル5Gの方が性能は良いが、まだコストが高い。

 

 

ローカル5G通信を導入するには、Moxaで提供するような無線端末とともに、システムやコアネットワークを用意する必要があります。システムに関してはWi-Fiアライアンスと同様に、5G製品の互換性を持たせる規格を定める「O-RANアライアンス」が存在します。Moxaもこの組織に加入しており、互換性試験をクリアした製品を提供しています【★写真14】。

 

 

【★写真14】産業用のローカル5Gは、OTネットワークでの情報収集から変換、転送までを考慮する必要がある。

 

 

また、Moxaでは5Gの取り組みとして通信モジュールメーカーで有名なQualqommから直接デバイスの供給を受けています。これにより製品開発や機能アップの時間も短縮しています。

 

Moxaの5G対応製品およびプライベート5G海外事例

産業分野における5Gの応用範囲は広く、OTネットワークでの情報収集からデータ変換、転送までを行う必要があります。Moxaでは、これらをすべてカバーしたトータルソリューションを提供しています。5Gソリューションについては、これまでに欧州の大手自動車メーカーにおけるAGV導入時や、スマートフォンの大規模製造現場での無線構築などで展開しており、十分な実績を積んでいます。

 

現在、半導体工場での5Gの需要が高まっています。従来のネットワークよりも供給デバイスが減るため、その分リスクも減少するためです。5GのニーズはFA分野でも同様で、自動化されたマテハン (AGVやAMR) やPLCベースの機械との接続で有用です。今後はIoTやDXが進展し、工場内のビッグデータを収集したうえで、AIで学習し、ラインのエラーを低減し、生産効率や安定性の向上を目指せるようになると見込まれています【★写真15】。

 

 

【★写真15】5Gを導入した半導体工場のケース。従来のDPMシステムと比べて、スイッチ類やCMS&SCADAなどが省かれてシンプルになる。

 

 

Moxaは産業分野のネットワークソリューションに関して、下位レイヤから上位レイヤまで全4,000アイテムを市場に投入しており、OTネットワークの幅広い選択肢を用意しています【★写真16】。

 

 

【★写真16】スマートマニファクチャリングの実現に向けて、無線技術には複数の選択肢がある。ローカルまたはプライベート5Gも有用だ。

 

正規代理店であるケーメックスONEは、無線機器の大量導入から、低予算設計、高度な要求レベルまで多くのご要望に対応しておりますので、ご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

コラムで紹介されている製品はこちら

産業用 IEEE 802.11a/b/g/n 無線 AP/ブリッジ/CL
AWK-3131Aシリーズ

AWK-3131Aシリーズ製品ページを見る

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産業用 IEEE 802.11a/b/g/n/ac 無線 AP/ブリッジ/CL
AWK-3252Aシリーズ

AWK-3252Aシリーズ製品ページを見る

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上記以外にも多数の無線機器をご用意しておりますので、是非こちらよりMoxa無線AP/ブリッジ/クライアントのラインナップをご覧ください。