2022 .8.23

環境に優しい「エナジーハーベスティング」なら、こんなことまで実現できる!

【その2】バッテリーレスでIoT機器を監視しよう!

前編では、FRABAのUBITOブランドが展開する「エナジーハーベスティング」(環境発電)技術を支える「ウィーガンド効果」を中心に解説しました。このエポックメイキングな技術は、自己発電によって、バッテリーレスのセンサを実現するなど、さまざまな応用のポテンシャルを秘めています。そこで後編では、具体的な事例として、UBITOが実施したエナジーハーべスティングシステムのユニークな概念実証「UWB(Ultra-Wide band)技術によるドア開閉検知システム」を中心に活用事例の一端をご紹介しましょう。

 

IoT機器のバッテリーレス化に寄与するエナジーハーベスティングシステムの可能性

前回、自己発電を可能にするウィーガンドセンサやウィーガンドジェネレータについて紹介しました。ウィーガンドジェネレータのようなイベントベースのエナジーハーベスティングシステムは、一度に特定量のエネルギーを供給できます。実は、システムが適切に設計されていると、イベント発生時の1回のエネルギー量で、センサなどの読み取りから、データ処理、ストレージ、無線送信までを、間欠的に実行できるようになるのです。

そこでご紹介したいのが、UBITOが行ったIoT機器のバッテリーレス化に寄与するエナジーハーベスティングシステム「UWB(Ultra-Wide band)技術によるドア開閉検知システム」の概念実証の事例です【★写真1】。

 

【★写真1】UBITOが試作した「UWB(Ultra-Wide band)技術によるドア開閉検知システム」の概念実証事例。ドアの開閉をトリガーとして、シングルイベントを発生させ、ウィーガンドジェネレータから電力を発生させる。

 

本システムは、市販部品だけを使用しており、ウィーガンドジェネレータをイベントベースモードで動作し、データを取得後に、ワイヤレスでデータを送信するように設計されています。ここではドア開閉をウィーガンドジェネレータで感知し、それを無線で携帯電話などに知らせるアプリケーションを開発しました【★動画1】。

 

【★動画1】ウィーガンド効果(エナジーハーベスティング)による無線ドア開閉検知システム

 

ドア開閉をトリガーとして、シングルイベントを発生させ、ウィーガンドジェネレータから電力を発生させます。その電力を使って前述のような一連のアクションを実現しています。とてもエコで画期的な実証実験です。

無線技術として利用しているのは、超広帯域無線技術 (以下、UWB:Ultra-Wide Band)です。UWBは、超短波の電磁パルス(3~11GHz)を送信する技術で、同じ周波数帯の狭帯域技術との共存が可能なうえ、同時にパルスの正確なタイミングを利用した高精度な測距ToF(Time of Flight)計測にも適しており、原理的に非常に低い消費電力を実現しています。

上記のような特長を持つUWBは、ウィーガンドジェネレータからのエナジーハーベスティングを用いた無線伝送技術としても有望視されています。

 

エネルギー効率を最適化し、100バイトのデータ転送で消費電力を僅か75nJで実現!

前述のUWB技術によるワイヤレス・ドア開閉検知システムは次のとおりです。まずシステムは、ウィーガンドジェネレータから電源を供給される無線センサノード(送信機)と、外部から電源を供給されるUWB基地局、およびIoT-gateway (受信機) で構成されています。

これらのうち、中枢となる無線センサノードの送信部分が【★写真2】となります。ここでは、ドア開閉をトリガーとして、写真右の2本のウィーガンドジェネレータが自己発電によって必要な電力を発生します。

 

【★写真2】ドア開閉検知システムのコアとなる無線センサノード(送信機)のシステム基板。ドア開閉時のシングルイベントをベースにして、ウィーガンドジェネレータから電源を供給。

 

ウィーガンドジェネレータからデジタル回路にエネルギーを供給するハーベスティング回路の構成を【★写真3】に示します。ここではウィーガンドジェネレータで発生した出力電流を、4つのショットキーFETでブリッジを組んで整流化しています。

 

【★写真3】ウィーガンドジェネレータからデジタル回路にエネルギーを供給するハーベスティング回路。ウィーガンドジェネレータからの出力電流を、ショットキーFET×4個のブリッジで整流化する。

 

 

UBITOによると、さまざまデバイスで整流器の設計を検証した結果、ショットキーFETの「RB751S」を使うと、わずか0.6%の損失で最高性能を発揮することが分かりました。ここで発生したエネルギーを蓄電したあと、デジタル回路のコンポーネントに電力を供給する形です。

次に、そのエネルギーを受けて、送信ボードからドア開閉に対応するON/OFFデータを送信します。この無線センサノード回路は【★写真4】のようになっています。トランスミッタ回路には、UWBトランシーバとしてSPARK Microsystems社のUWB用トランシーバICファミリー「SR1000シリーズ」を使用しました。

 

【★写真4】無線センサノードの回路。エネルギー効率を高める構成にできると、100バイトのデータ転送(ドア開閉に対応するON/OFFデータなど)で消費電力を僅か75nJに抑えながら、30mの距離で通信が可能になる。

 

たとえば「SR1010」の場合だと、到達通信距離が約60m(@4GHz)で、100バイトのデータを転送する際に必要な消費電力は500nJという結果が得られました。さらにエネルギー効率を高めるためにパラメータを最適化すると、100バイトのデータ転送で消費電力を僅か75nJに抑えつつ、30mの距離で通信が可能です。

もう少し詳しく各コンポーネントの消費電力について見てみましょう。各エネルギーの消費量を分析したグラフが【★写真5】です。トリガーイベントごとに2回の磁気反転を行う2つのウィーガンドジェネレータは、理論上29.6μJを発生します。このエネルギーは、最適化された均一磁場で測定されたものなので、現実的なシナリオでの収量は若干異なります。

 

【★写真5】ウィーガンドジェネレータからのパルス運転サイクルにおける、各コンポーネントのエネルギー消費分布と損失。1回の間欠動作で平均25.4%(7.5μJ) のエネルギーが余ることが分かる。

 

いずれにしても、全体の駆動サイクルのなかで、すべての消費エネルギーを差し引いたとしても、18.4%のエネルギーが余っていることが分かります。つまりウィーガンドジェネレータで自己発電した電力によって、UWBトランシーバ、MCU、発振器(OSC)、外部センサを含むデジタル回路を瞬間的に駆動させ、間欠通信が十分に賄えることになるわけです。

平均 25.4% (7.5μJ) の残留エネルギーは、センサの追加読み出しや、安定性とセキュリティのためのさらなるMCUの処理、またはUWBペイロードデータの転送増分のために使用することもできるでしょう。

 

まだまだ広がる可能性! 電源レス・ワイヤレスIoTシステムのポテンシャルはこんなもんじゃない

以上のように、ウィーガンド効果によるエナジーハーベスティングを利用したIoTシステムの概念実証についてご紹介しました。これにより、センサからのデータ収集、処理、無線伝送を行う回路に、パルスによるイベントベースの動作モードで電力を供給し、各コンポーネントを十分に駆動させることが可能であることが証明できました。

今回のUWB技術によるドア開閉検知システムは、スマートホームや産業用ドア、窓の開閉アプリケーションなどに応用できるでしょう。しかし、我々ケーメックスONEでは、まだまだウィーガンド効果によるエナジーハーベスティング技術に大きなポテンシャルがあると考えています。

たとえば、電源レスでセンサにより物理的特性を検知できることから、可動部品 (ポンプ、風車、タービン、車輪、組立ベルトなど) の周辺にあるアプリケーションのモニタリング用途にも適しています。いわゆる故障前の予兆保全にも使うことができるでしょう。また、エナジーハーベスティング技術ならば、電力供給が不可能であったり省配線化が求められる場所、あるいは経済的に見合わない状況で、新しいプラグ&プレイのソリューションになる可能性を秘めいています。水道のスマートメータにも適しているかもしれません。

 

もし、貴社のシステムにおいて、ウィーガンド効果によるエナジーハーベスティングを活用したいというご要望がございましたら、ぜひ弊社までお問合せ下さい。皆様のご意見、ご要望を心よりお待ちしております。

 

資料ダウンロード

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