2020 .1.14

Moxa林宥樺氏(Leo Lin氏)に聞く! 産業用IoT技術の鉄道への応用

産業用通信制御分野に30年以上にわたって実績を持つMoxa社は、鉄道交通において最も厳格な国際鉄道産業標準の「IRIS」(International Railway Industry Standard)認証を取得し、高信頼性と高可用性のIPネットワークソリューションを提供しています。すでにワールドワイドで500以上の成功事例がある同社で活躍する、Sales RepresentativeのLeo Lin 氏(林宥樺 氏)【★写真1】に「産業用IoT技術の鉄道への応用」をテーマに話をうかがいました。

●加速する鉄道のデジタル化と、拡大する鉄道IoTの役割とは何か?

【★写真1】Moxa社. Sales RepresentativeのLeo Lin 氏(林宥樺 氏)

ーー最近、鉄道業界でIoT製品が採用されるようになってきましたね。

Leo Lin 氏:そうですね。現在鉄道ではIoTが注目されていますが、MoxaのIoTソリューションは鉄道だけでなく、スマートシティの通信関係にも応用されています。交通システムへの投資は拡大しており、鉄道のデジタル化も含めて500億ドルのマーケットがあると予想されています。
鉄道のIoT化の主な目的は、効率化・安全性・乗客の満足度の向上です。そのためには、まずシステムのデジタル化を進める必要があります。たとえば「PA(放送)/PIS(乗客案内システム)」「CCTV(監視カメラ)」「TCMS(列車制御監視)」といった車両内や駅構内/沿線のデータを、「P-WiFi」(パッセンジャーWiFi)を通じて、地上基地側の「OCC」(中央統御式指令所)に送信します。
こういった周辺データのデジタル化を進めることが重要です。

鉄道関連企業はIoT化によって各システムから収集されたビッグデータを分析することで、監視、車両管理、アラーム、予知保全などに活用しようとしています【★写真2】。
たとえば、列車レベルや駅構内/沿線レベルの設備を、LTE、P-WiFi、PTN(パケットトランスポートネットワーク)経由で、リアルタイムにOCCのデータベースに蓄積し、それらをAIや機械学習で分析します。
監視については、CCTVによる乗客の見守りだけでなく、車内の使用電力、特定パーツの状態、架線やレールのモニタリングまで可能です。さらに特定パーツに異常が発生すると、アラームで警告します。
車両管理も従来より高精度に位置や情報を把握できるようになります。保守点検では、定期点検の合間に何かのパーツが壊れるリスクもあるため、データ収集で学習するAIによる予知保全が安全性の向上につながります。

【★写真2】鉄道関係でIoT化を進めたい主な理由。
収集されたビッグデータをAIで分析し、監視、車両管理、アラーム、予知保全などに活用

鉄道関係に適用できるIoTゲートウェイの構成とポイント

ーーでは、Moxaでは具体的にどういった製品を提供しているのでしょうか?

Leo Lin 氏:我々は、こういったIoTのデータ取得を中心に、さまざまなソリューションを開発しています。そのコアとなる製品の1つに「IoTゲートウェイ」があります。

鉄道車両での一般的な構成は次の通りです【★写真3】。まず車内には、車両制御のインテリジェンスを担う「VCU」(ビークルコントロールユニット)と「TS」(トレインスイッチ)が設置され、車内でギガビットイーサネットを構成します。センサからのデータは、ネットワークバックボーンに接続されたIoTゲートウェイを経由し、LTEでOCCなどのインフラにつながります。

そして列車の監視データやステータス情報、運行イベントログ、設備障害レポート、乗車率データ、ビデオなどの情報が送られます。監視カメラからのビデオもOCC側で表示することができます。
地上基地から車内システムのトラブルシューティングや、ソフトウェアやパラメータ更新を遠隔で行えます。

【★写真3】鉄道車両でIoTゲートウェイを使う際の一般的な構成例。
VCUとTSを設置し、ギガビット・イーサネットを構成。
センサデータはIoTゲートウェイを経由し、LTEでOCCなどに送る。

ーーIoTゲートウェイを選定する際に押さえておきたいポイントはありますか?

Leo Lin 氏:IoTゲートウェイと一口に言っても、この2、3年間で汎用、産業IoT用、特定市場用など、数えきれないほど多くのブランドが登場しています。これらのうち鉄道に利用できるIoTゲートウェイには、いくつかのポイントがあります。

たとえば、通信手段に関してはセルラー、WiFi、GPSが利用されます。鉄道では長距離や山間部などの地形に対応するために、セルラーは特に重要になります。Wi-Fiは車両が駅や基地に戻り、データをOCCに送る際に使われます。最新GPSは列車位置を高精度に把握するために注目を浴びています。

ただし、こういった鉄道システムは無線機能だけでは不十分です。そこで追加機能が求められます。まずシステムを柔軟にするプログラムの搭載が大切です。IoTゲートウェイは、ユーザーの仕様に従って、車両制御のインテリジェンスを担うVCUと通信します。列車の編成が変わっても通信を成立させる条件はIPルーティングが可能なこと。そこでIoTゲートウェイにより、VCUとOCC両者のIPをポートフォワーディングします。

次に、LTEを使うにしても、地域によって通信強度が異なります。そこで車両と地上間の通信を行う際に、マルチキャリアで利用できるようにする必要があります。IoTゲートウェイでWANのルーティング優先順位を決めておき、もしキャリアの電波が届かないときは、代替キャリアで通信できるように、常に良い通信環境を確保することが重要です。

またロードバランスも大切です。IoTゲートウェイで車両内システムやセンサから大量データを収集し、地上局のOCCへデータを送って、AIで分析するには大きな負荷がかかります。帯域幅が足りずに伝送遅延が発生してしまいます。そこで複数のIoTゲートウェイで負荷分散できるようにしておくこともポイントになります。

IoTゲートウェイの新たな活用法~架線や自由席のモニタリングも!

ーーIoTゲートウェイの活用で何か面白い使い方があれば教えてください。

Leo Lin 氏:たとえば、CCTVによる緊急通報の活用があります。乗客が列車に設置された緊急ボタンを押すと、LTEを経由して運転席の画面への通知と通話が行えます。それだけでなく、重要事態の場合はIoTゲートウェイを経由し、地上基地のOCC側へ通知され、他の列車に連絡されます。

また架線の監視にもIoTゲートウェイが活用できます。電車上に超高速・赤外線の監視カメラを設置し、架線の位置や温度などの変化を収集し、AIで分析を行います。もし異常があれば迅速に対応します。

台湾の新幹線で導入される新しい乗車情報システムにもIoTゲートウェイが活用されます。もともとは列車の運行状況の機能だけだけでしたが、新システムは自然災害(台風や地震など)の情報を即時に表示します。

さらに進化した機能としては、座席の自由席をモニタリングできることです【★写真4】。これまで乗客が自由席を探すのは大変でした。そこで新システムでは、乗客情報を検索できて、事前に空席の多い車両に移動することができるようになります。

また、IoTゲートウェイを介し、地上基地に乗客情報が即時アップデートされます。具体的には、乗客の乗車パターンと行為を分析することで、タイミングに合わせてチケットを買いやすくするなど、より良いプロモーション活動を展開にも活用できるでしょう。

【★写真4】IoTゲートウェイの新たな活用例。
たとえば、座席の自由席をモニタリングし、乗客情報を検索できるようにする。
乗客は事前に空席の多い車両に移動することが可能になる。