2020 .2.10

高速鉄道の特殊な無線ネットワークに最適なMoxa製品の導入例を一挙に紹介!

タイの高速鉄道で進めてきたCBTCの先進事例

Moxaは、産業用通信制御機器のトップメーカーとして、ワールドワイドで多くの実績を有しています。今回は、同社が得意とする鉄道業界における代表的なベストプラクティスについて紹介しましょう。
特に厳しい通信要件が求められる鉄道業界での実績は、多くの他の産業界でも参考になると思います。

世界各国で都市化が進むなか、都市部、あるいは都市間を結ぶ高速鉄道の需要はますます拡大しています。そこでは、さらなる輸送力を高めるため技術の進歩が日々求められています。

たとえば、列車の間隔を短縮し、大量の人を運ぶための「CBTC」(Communications-Based Train Control)は大きな需要が見込まれています。
これは列車と地上設備で通信を行い、列車の運行と制御を行う信号保安技術です。従来システムと比べ、より正確な列車位置の把握と制御を行うことができます。また車両内の設備や配線を削減し、 乗客のための空間をより広げる必要もあります。

これらの実現に貢献するのが先進的な無線技術です。ただし通常のWi-Fi技術と異なり、高速鉄道のCBTCアプリケーションには特別な無線性能が求められます。たとえば、ローミング時間500ms以下、パケット遅延時間5ms秒以下、パケット成功率99.999%と厳しい要求が必要です【★写真1】。
Moxaは、このようなCBTC無線技術の課題をクリアすべく、さまざまな取り組みを行ってきました。
その1つが、タイで進めてきたCBTCの無線システムです。

【★写真1】高速鉄道のCBTCアプリケーションに求められる無線性能。

Moxaの陳友士(Enzo Chen)氏【★写真2】は「このプロジェクトで特に難しかった点は、既存システムを更新していくことでした。インフラの制限だけでなく、新旧の無線製品を混在させつつ、新システムの移行が求められました。当然ですが、移行期間に列車を止めることはできません」と振り返りました。

【★写真2】Moxa Inc. Railway Solution Architect 陳友士(Enzo Chen)氏

そこでMoxaは、最初に一部の路線でテストを実行し、その後に全路線へと試験運用を拡大していきました。機器として採用したのは、Moxaの屋外ワイヤレスAP/クライアント「TAPシリーズ」でした。

「まず更新時に既存製品に悪影響を及ぼさないことを確認する必要がありました。また新旧システムを同時に動かすため、限られた周波数帯域で通信を保証しなければなりません。既存システムでIMSバンド(2.4GHz)が占有されていたので、ナローバンドで周波数帯の利用を改善しました。具体的には20MHz帯域端部に5MHz帯のナローバンド・チャネルを設けました」(陳氏)【★写真3】。

【★写真3】以降にあたり新旧システムを同時に動かすことになるが、
既存システムが2.4GHz帯を占有していたので、5MHzのナローバンドも使い、
周波数帯の利用を改善した。

また、干渉を回避する必要もあります。ただし電波は昼夜で変化するため、干渉のチャネルも変化します。
「電波特性を把握するために、ラボのスペクトラムアナライザーでノイズを入れながらシミュレーションして、どんな干渉が起きると信号レベルが落ちるのかを検証しました。それに合わせてチャネルフィルターも設計し、干渉対策を施しました」(陳氏)。

また高速鉄道ではスマートなハンドオーバーも重要です。あるチャネルに干渉が発生した際すばやく別チャネルにバトンタッチできなくてはなりません【★写真4】。
「ハンドオーバーの弱点は、別の遠い場所にあるAPに接続することがあり、信号強度が弱くなることです。そのため周波数ホッピング技術も対策の1つに挙げられます。この技術は一定時間ごとに無線チャネルを切り替えるため、信号強度は変わりません。ただし製品展開が難しいため、我々も現在取り組み中です。近い将来、実装したいと考えています」(陳氏)。

【★写真4】高速鉄道では、あるチャネルに干渉が発生したとき、すばやく別チャネルにハンドオーバーできる仕組みも重要。
その際に信号強度が落ちないような方式にも取り組んでいる。

最後に同氏は「タイでの挑戦からは多くのことを学びましたが、まだ検証が必要です。しかし今後はCBTC技術が必須になります。単に列車制御だけに無線技術を使うのでなく、バーチャルカップリング(列車を無線で連結)やLoRaといった技術も登場しています。これからもMoxaは新技術に対応していきます」と力強く語りました。

Moxaの駅内統合監視システムと、最新の車上ネットワーク設計

【★写真5】Moxa Inc. アジア営業本部 日本営業部鉄道事業開発マネージャ 林立揚(Kenji Lin)氏

続いて、Moxaの林立揚(Kenji Lin)氏【★写真5】が、鉄道通信システムの計画をテーマに、2018年から中国と連携して進めている「駅内の統合監視システム」の事例を紹介しました。

従来の駅内監視システムには、複数の課題がありました。改札や乗客案内、監視カメラなどのシステムが独立しており、それぞれの調達や運用に手間がかかかっていたのです。

林氏は「システム間で異なるソフトやプロトコルが使われており、連携時に不整合が発生するリスクがありました。また各システムの管理や改廃、機能や設備の拡張も困難で、メンテナンス費用も高かったのです。さらに影響の大きい中央統制御指令所・OCC(Operation Control Center)に負荷が集中すると、そこが単一障害点になって故障時の被害も甚大になります」と指摘しました。

そこでMoxaでは「ハードの統一」「OSの一貫性確保」「実用に耐える堅牢・柔軟な仮想化基盤」「設備自体の冗長化」「駅間の冗長化」「OCCの分散化」を解決策として挙げ、それらを実現するために「駅のクラウドベースの運営プラットフォーム」【★写真6】を新たに提案しました。

【★写真6】従来の駅内監視システムの課題解決のために、
Moxaが提案した「駅のクラウドベースの運営プラットフォーム」。
OCCと各駅間を高速ネットワークで結び、分散処理を行う。

本システムは、カスタムOSを搭載したサーバーユニット、L2/L3 スイッチングユニット、ストレージユニットのプールを各駅に置いて共通化し、これらを10Gbpsのバックボーン・ネットワークで結びます。
サーバー上にはバーチャルマシンを用意し、共通ゲストホストを走らせ、すべてのサブシステム(改札、PA、監視カメラ、EMCSなど)を、このゲストホスト上で稼働させる仕組みです【★写真7】。

【★写真7】システム構成。サーバー、L2/L3 スイッチング、ストレージのユニットを各駅に置いて共通化。
サーバー上のVMでゲストホストを走らせ、すべてのサブシステム稼働させる。

「駅には3台ぶんの同一ラックを用意し、各駅内・駅間で冗長化しました。何か障害でシステムが落ちても、他駅の余剰ユニットによって処理能力が分散化されるため、従来どおりのバランスで処理することが可能です。本クラウドプラットフォームは、すでに稼働しており、将来の新たな駅システムとしてチャレンジが始まっています」(林氏)。

次に、林氏は最新の車上ネットワーク設計について解説しました。列車バックボーン通信の「ETB」(Ethernet Train Backborn)と列車内伝送の「ECN」 (Ethernet Consist Network)の要件を定義した「IEC-61375」に準拠するネットワークと、ギガビットの列車バックボーン「Gigabit ETBN」という2つの技術がポイントになります。

列車通信ネットワークは、前出のようなETBとECNを組み合わせて、パフォーマンスと柔軟性を実現します。運用時に列車編成が変更されることもあるため、IPアドレスの衝突を避けながら、編成や列車間トラフィックを車両側で管理し、鉄道沿線のコントロールセンターにデータを送る必要があります。

林氏は、これら車上ネットワークトポロジーについて、イーサネットを編成内のモニタリング用として使う「WTB(Wire Train Bus)とECNの共存設計」、イーサネットをPIS(Passenger Information System)やCCTVシステム用に使う「ETBとWTBの共存設計」、さらに2本のETBNを使って高速化と信頼性を担保する「フルイーサネット設計」による設計方法を挙げました。

もう1つのGigabit ETBNについて、林氏は「前出のIEC-61375規格において、ETBは100Mbpsしか定義されていません。しかし運用上では、たとえば列車編成をまたいでCCTVのデータなどを転送する際に100Mbpsでは足りないケースがあります。そこで欧州や米国では、ETBN規格に対応するギガビットルータを欲しがっています」と説明。

このようなニーズに応えるべく、同氏は「Gigabit Secure Router/ETBN TN-4900シリーズ【★写真8】を今年から市場に投入する予定です」とアナウンスしました。

【★写真8】ETBN規格に対応するギガビットルータ「Gigabit Secure Router/ETBN TN-4900シリーズ」。
高速鉄道でCCTVのデータなどを転送する際にニーズがあるという。