2017 .5.24
【ツボその7.5】一般的な産業用無線LANを構築
50msの高速ローミングが可能なMOXAの無線LAN製品の強み
以前、「鉄道・バス向けのネットワークシステムを構築するためのツボ」をテーマに、車両間の無線LAN製品についてご紹介させていただきました。その際は、鉄道・バスという特殊環境での事例でしたが、今回は一般的な産業用の無線LAN製品について解説したいと思います。
産業用途とはいえ、無線LANを構築するためのアクセスポイントやクライアントの機能は、民生用や商用の製品と基本的には変わりません。では、一体何が違うのでしょうか?産業用では、より過酷な環境において利用できるタフな構造で設計されている点が挙げられます。
産業用途の場合には、周囲温度や振動・衝撃など、より厳しい環境に耐えられることは当然ですが、さらにMOXA製品には優れた独自機能を装備しています。まずはTurbo Roamingについてご説明しましょう。
ローミングの概念については、携帯電話の基地局をイメージして頂ければご理解いただけるものと思います。たとえば自動車や電車のような移動体で電話をしているとき、そのエリアを管轄する基地局から離れると、別の基地局に引き継ぐ形で通信が切り替わります。このように、あるAP(アクセスポイント)から異なるAPに通信が切り替わることをローミングと呼びます。
MOXAの無線LAN製品は、このローミングの切り替え速度(ハンドオーバ時間)が150ms以内(無線コントローラWAC-1001との連携で最高50msまで可能)と非常に高速な「Turbo Roaming機能」を備えている点が大きな特徴です。一般的な無線LAN装置では、ローミングに数秒以上かかることもありますので、いかに高速なローミングなのか、ご理解いただけるでしょう。
映像伝送では、それなりに帯域も必要ですし、MOXA以外の製品で通信が少しでも途切れてしまうと、そのまま画面がブラックアウトし続ける可能性があります。そのためMOXAのTurbo Roaming機能が重要になるわけです。
工場現場でも重要なデータが無線で飛び交っています。最近では、IoTやIndustrie 4.0の流れから、工場や倉庫の自動化・無人化を進める動きもあります。現場にはモノを自動搬送する「AGV」(Automatic Guided Vehicle)や移動ロボットなどが動いています。このような移動体の無線通信を行う場合にも、MOXAの無線LAN製品が大活躍します。
さてMOXAの産業用無線LAN製品群には、具体的にどのような製品あるのでしょうか。代表的な製品として「AWK-Aシリーズ」(以下Aシリーズ)について触れたいと思います。
AWK-Aシリーズは、特にAGVでシェアが高い製品です。工場内はノイズや静電気が発生しやすく、さらにAGVはバッテリでモータを駆動するため、ノイズが乗りやすいのです。そこでAWK-Aシリーズは、電源およびアンテナのポートに対し、静電気・ノイズ・サージから保護する機能を備えています。電源及びRFに対し500Vの絶縁及びLEVEL4のESDまで対応しています。
無線LANを冗長化するエアロリンク機能と、帯域を保証するデュアルRF
もうひとつ重要な機能として、MOXA製品は無線LANを冗長化する「Aero Link」と呼ばれる機能も備わっています。電波が遮断されるような大型物が移動する際には、通信が途切れてしまうことがあります。たとえば対岸同士で、IPカメラのデータを伝送しており、そこに大型客船などが通過した場合をイメージしてください。
このとき電波を途切れないようにするには、通信が1対1ではなく、1対多、あるいは多対多になるようにネットワークを構成する必要がございます。ただし有線LANと同様、そのままではネットワークでループが発生してしまいます。有線LANの場合は、「STP」(Spanning Tree Protocol)や「RSTP」(Rapid Spanning Tree Protocol)によって、ループを回避することができますが、無線LANの場合はそうもいきません。
そこでMOXAでは、Aero Link機能をご用意しています。通常で使う無線LANスイッチをアクティブにし、バックアップ用スイッチをパッシブにしておき(パッシブ側にも通信リンクが張られますが、パケットは流れない状態です)、何か障害が発生した際には、300ms以内にアクティブからパッシブに切り替えて、切り替わった先から通信を行う事が可能です。
エアロリンクによる冗長構成の活用シーン(対岸を船舶が通り抜ける際の対策)。1対多、多対多でリンクを行う。
AWK-Aシリーズは、いずれもIEE802.11a/b/g/nをサポートしており、屋内用では3種類のモデルから選択できます(屋外用は2種類)。前出のTurbo Roamingに対応した一般FA向けエントリーモデル、さらにTurbo Roamingに加え、耐環境性に優れ、Aero Link機能に対応したシングルRFタイプのベーシックモデル、およびデュアルRFタイプのアドバンスモデルが用意されています。
デュアルRFモデルを使う事で、片方のモジュールで2.4GHz、もう片方のモジュールで5GHzと異なる周波数で通信を行い、どちらかの周波数に干渉が発生しても、パケットロスが発生しないまま通信を継続する事が可能となります。【★写真1】
【★写真1】AWK-Aシリーズのラインアップ。エントリーモデル、ベーシックモデル(シングルRF)、アドバンスモデル(ダブルRF)を用意。
また、デュアルRFモデルの応用的な使い方として、WDSの様なAP同士のブリッジ構成でも効果的な使い方が可能です。複数台のAPをブリッジ構成にした場合、AP間を相互接続する一般的なWDS機能だと、ブリッジするAPの台数が増えた分だけ帯域を半分割するため全体の帯域が減ることになります。WDS接続した場合、実帯域÷2÷ブリッジする段階数という計算式が適用されます。
たとえば802.11nで150Mbpsほどのスループットが確保できる環境で3台のAPをブリッジした場合、全体で使用できる帯域は150Mbps÷2÷2=37.5Mbpsとなってしまいます。さらに接続するクライアント数によっても変化してくるため、カメラのアプリケーションなどの広帯域の無線通信を長距離行う際に、WDS機能では帯域が足りなくなる恐れがあるのです。
しかし、デュアルRFモデルをご利用いただく事で、2つのRFモジュールがあるため、各AP間は1対1の関係が保たれ「APモード~クライアントモード」によって接続できます。そのため帯域を全体で分け合わず、150Mbpsのままで通信することができるのです。これもカメラの映像データを長距離伝送する際のコツといえるでしょう。それでは、また次回をお楽しみに。