2022 .1.25

【特報!採用事例研究】ステッピングモータ大手のASPINA(シナノケンシ)は、なぜPOSITALのバッテリーレス磁気式アブソリュートエンコーダを採用したのか?

精密モータ&ドライバ、アクチュエータなどのモータソリューションから、動作検証・解析ツールをはじめとする産業ソリューション、福祉・生活支援機器を大きな柱に事業を展開しているASPINA(シナノケンシ株式会社)。1918年の創立以来、研究開発から営業、製品設計、生産、製品・サービスの供給まで、グローバルなネットワークを構築し、世界各地の顧客ニーズにマッチした幅広いソリューションを提供しています。今回、同社にPOSITALのアブソリュート(ABS)エンコーダを採用いただきました。ご担当者の竹花公宏氏に詳しい話をうかがいました【★写真1】。

 

【★写真1】シナノケンシ株式会社 ALビジネスユニット 技術部 開発設計2課 竹花公宏氏(写真:右)、ケーメックスONE POSITALプロダクトマネージャー 村松和彦(写真:左)

 

小型ステッピングモータに取り付け可能なABSエンコーダを求めて

ケーメックスONE 村松和彦(以下、村松):早いもので、私がASPINA(シナノケンシ)様に訪問したのは5年前のことになります。まず初めに、POSITALをご採用する前に抱えていた課題や、解決したかった悩みから教えていただけますか。

 

ASPINA(シナノケンシ) 竹花公宏氏(以下、竹花):当社は、モータ関係ではハイブリッド型ステッピングモータやブラシレスDCモータを中心に展開しています。その技術ロードマップにおいて、ステッピングモータと組み合わせたABSエンコーダの開発が計画化されていました。

 

当時、工作機械やロボットの市場では、電源が切れてもシステムを原点復帰することなく、位置情報を保持できるアブソリュート(ABS)エンコーダの要求が増えていました。そのような状況で、電池交換が不要でメンテンスがラクになるバッテリーレスのABSエンコーダに着目し、POSITALの製品に興味を抱いたのです。

 

ただし我々のステッピングモータは、幅広いラインナップがあり、すべての製品に取り付けられる共通したシリーズの小型エンコーダを導入したいという要望がありました。そこでPOSITALの製品を取り扱っているケーメックスONEさんにご相談をさせていただいたわけです。

 

村松:選定ポイントはどのようなことだったのでしょうか? どのような条件からPOSITALを候補のひとつに加えたのか、採用ポイントと最終的な決め手を教えてください。

 

竹花:技術的な難易度が高いこともあり、バッテリーレスABSエンコーダの導入にはもともと市販品の検討を進めていました。実はケーメックスONEさん以外にも、多くのエンコーダメーカーに問い合わせていたのですが、いずれもバッテリーレスABSエンコーダのサイズがΦ35mm程度で、当社の小型ステッピングモータの最小製品の取り付けサイズ(□28mm)に適合しないものばかりでした。しかしPOSITALにΦ22mmの製品があるという話をお聞きし、これが採用の大きな決め手になりました【★写真2】。

 

【★写真2】ASPINAの代表的なステッピングモータ群。取り付けサイズが□28mmから□86mmとワイドなラインアップを用意しており、すべてのモータに1つのシリーズで取り付けられるABSエンコーダを探していた。

 

POSITALと二人三脚で理想のABSエンコーダを開発

竹花:もちろん当社のモータラインナップに対応できることが選定の大きな理由でしたが、それ以外にも製品を提供いただくプロセスのなかで、POSITALさんと代理店のケーメックスONEさんのサポート力に大きな魅力を感じました。

 

サンプル提供のみならず、モータに組み付けた動作検証から、動作に適合できない部分なども、海外の技術陣とやり取りをしながら改良を重ね、当社好みの仕様になるように味付けをしてくれた点も、最終的な選定の大きな理由になりましたね。

 

村松:御社のモータのパフォーマンスを最大限に引き出せるように、当初から二人三脚で取り組んできましたよね。具体的なカスタマイズや改良点に関して、POSITALに伝えた御社の要求性能についてお話できますか?

 

竹花:はい。初期サンプルでは制御信号の通信仕様が合わなかったので、POSITALさんにお願いして通信速度を高速化し、その周波数も数種類ぶん選べるように改良していただきました。これにより我々のみならず、他メーカーさんでも利用できるような一般的な仕様までブラッシュアップできたと考えています。

 

村松:そうですね。小型エンコーダの評価は、ASPINA(シナノケンシ)さんが業界で最も先行していましたから、POSITALにとってもこの共同作業は非常に有用なものになったのではないかと思います。現時点で、このABSエンコーダの使用状況と構成について教えてください。

 

竹花:いまは□28mm角から□86mm角のサイズのステッピングモータと組み合わせて、通信によってモータの磁極位置情報を取得し、サーボ制御をかけています。当社ではパルス出力タイプのインクリメンタル(INC)エンコーダでサーボ制御をかけている製品もありますが、その動作特性と同様の特性が得られることを確認しています。

 

またバッテリーレスのABSエンコーダなので、アンプ電源の遮断やエンコーダケーブルが取り外された場合でも位置の保持が可能です。電源遮断前の動作継続ができること(原点復帰が不必要)や、ケーブルの再接続時に原点再設定が不必要であることを確認しています。

 

ASPINAがステッピングモータにサーボをかける理由とは?

村松:少し話がそれますが、そもそもオープンループで制御できるステッピングモータに対して、わざわざクローズドループで制御をかけるようにしたのは、どのような理由からなのでしょうか?

 

竹花:いくつか理由があるのですが、まず我々のステッピングモータは、世界で第3位の大きなシェアを持っており、戦略的にスケールメリットという点でコスト面など自社の強みを発揮できるという理由がありました。また技術面で言うと、ステッピングモータは、ブラシレスモータと比べて特性上で高速領域の制御が難しいのですが、その一方で、低速領域で高トルクを出せるメリットがあります。

 

低速領域でトルク制御のためにサーボをかけると、たとえばギアヘッドがなくても安定駆動できます(専門的になりますが、モータの磁極の位置に対して、適切な電流を流してトルクを正確に制御するために、エンコーダの位置情報が必要になります。シナノケンシでは、独自の「電流ベクトル制御」を開発し、低速から高速まで安定したトルク制御を実現しています)【★写真3】。

 

【★写真3】ASPINAでは、独自の「電流ベクトル制御」でステッピングモータをコントロールすることで、低速から高速まで安定したトルク制御を実現している(出典:ASPINAのWebサイトより)。

 

これにより往復する機械システムなどでは、ステッピングモータを直付けにするダイレクト・ドライブによって、機械的エネルギー損失が少なくなり、またバックラッシュレスで高精度を出せるようになるわけです。ほかにも低速領域で細かいトルク制御が可能なアプリケーションとして、ネジ締め機やロボットハンドなどにも応用が利きます。

 

村松:最近注目されている協業ロボットのグリップ部やエンドエフェクタなどにも適していますね。ロボットといえば、ASPINA(シナノケンシ)様は薄型中空ブラシレスモータ【★写真4】も開発されています。弊社では中空タイプに取り付けられるPOSITALのエンコーダも取り扱っているので、こちらの組み合わせも期待しています(笑)。

 

【★写真4】ASPINAの薄型中空ブラシレスモータ群。中空部にケーブル類を通せるため、ロボットの外装がスッキリする。このような中空モータ用のエンコーダもPOSITALでは販売している。

 

POSITALの採用でASPINAが得られたメリットは?

村松:いまの話と関連しますが、POSITAL製品の導入によって、お客様にどんな価値をご提供できそうでしょうか?

 

竹花:そうですね、我々は以下の価値をお客様にご提供できると考えています。

 

■Point1 位置情報の保持可能
■Point2 外部センサ不要
■Point3 磁気式のため汚染環境(ホコリ・塵・油)に強い
■Point4 バッテリー交換などのメンテナンス削減
■Point5 海外輸送の手続きを軽減

 

竹花:これらのポイントは主にバッテリーレスABSエンコーダのメリットとして一般的に挙げられるものです。さらにPOSITALの製品では、絶対位置を記憶する際に、マルチターン(多回転)の範囲が他社製品よりも広いという差別化のポイントがあります。具体的には16ビットで65535回転までカバーできます(製品によっては、さらに範囲が広いものも用意)。これにより機械ストロークが長いアプリケーションなどにも使用できるようになります。

 

村松:バッテリーレスでも機械式(ギア式)のABSエンコーダだと、どうしてもサイズに制限があり、多回転をカバーできなくなります。しかしPOSITAL製品は磁気式なので、小型でも多回転の製品に幅広く対応できるのです。POSITAL製品を導入した拡販予定やサービスの広がりなど、今後の展望についても教えてください。

 

竹花:いまは当社の仕様に基づいた製品づくりに注力しています。今後は我々の標準品として、年間1000台ベースで販売できるようにしていきたいと考えています。もちろん、これをベースにして、モーションコントロール分野なども含めて、お客様のカスタム案件への展開も期待しています。

 

村松:最後になりますが、POSITALとケーメックスONEに期待することがあれば、何か一言お願い致します。

 

竹花:我々はモータと組み合わせて、今後もお客様に新たな価値を提供できる部品やシステムをお届けしていく所存です。その際にエンコーダ以外にも、多くのセンサを採用していくことが重要だと考えています。これからもユニークな製品があれば、ご提案を頂きたいです。当社としても、さまざまな情報により活動範囲が広がり、協業による新たな顧客開拓にもつながるものと期待しています。

 

村松:本日は貴重な時間を頂き、大変ありがとうございました。なお、東京ビッグサイトで3月9日~12日に開催する予定の「2022国際ロボット展(iREX2022)」において、今回お話した製品を展示いたします(ブース番号:E5-16)。ご興味のある方は、ぜひ会場で実物をご覧いただけると幸いです。

 

 

【企業プロフィール】

■資本金 6億5,000万円
■従業員数 グループ全体:4000人(日本/本社:850人)
■売上高 単独348億円/連結381億円(2021年2月)
■事業内容 精密小型モータの製造・販売
■設立 1918年(大正7年)
1962年からモータ事業を開始、2018年に創立100周年を迎え、「ASPINA」というコーポレートブランドを立ち上げた
■代表取締役社長 金子元昭
■所在地 〒386-0498 長野県上田市上丸子1078(本社/丸子事業所)
ASPINA公式サイトはこちら

 

コラムで取り上げた製品はこちら

今回取り上げたPOSITAL製品が掲載されたパンフレットがございますので、ご興味のある方はこちらよりダウンロードしてご覧ください。
※ダウンロードは無料、会員登録が必要です。

 

2022国際ロボット展(iREX2022)について

ケーメックスONEは2022国際ロボット展(iREX2022)へ出展いたします。出展情報および招待状のお申込みはこちらをご覧ください。